売っちゃうべき?持っとくべき? 性格タイプ別 不動在庫の処理方法
ファルマーケットは、2014年から10年間不動在庫の買取事業を行ってきましたが、サービスをご利用いただくみなさまが、口を揃えて「難しい、分らない」とおっしゃられる悩ましいテーマがあります。
それが、不動在庫の損切り基準です。
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▼目次
1.例えばこんなケースはございませんか?
2.【解説】売るべき?持つべき?は期待値を計算する
3.あなたはどのタイプ?不動在庫処理のおすすめ実践方法
4.【解説】なぜ使い切れる可能性 VS 買取利率になるのか?
5.【解説】使い切れる可能性とは?
6.応用編:売ると残すのダブル運用
7.終わりに
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1.例えばこんなケースはございませんか?
いかがでしょうか?本人としては株の売買でよく言われる「上手な損切り」を行ったつもりではあったものの、どうしてこんなことが起きてしまうのか!?と、心情的にはモヤモヤしてしまいますよね。
わたしも趣味の麻雀をしているとこうした場面によく遭遇します。
不要だと判断した牌を切った直後に、また同じ牌をツモってしまう現象、いわゆる「切る来る法則」が発動した時の後悔たるや…、なんで切ってしまったんだ!と、ひどく落ち込むものです。(蛇足でしたね(^^))
ツイてなかった、運がなかった、で済む話ならいいですが、不動在庫や廃棄ロスは薬局経営にとってインパクトの大きいテーマです。感覚的に売る/残すを考えるのではなく、もしルールベースの運用が可能ならば、なんらかの対策を講じる必要があります。
そこで今回のコラムでは、不動在庫を保持し続けるメリット、デメリットと、売却したときのメリット、デメリットそれぞれを整理し、適切な損切り方法(≒後悔しない損切り方法)をご紹介したいと思います。
2.【解説】売るべき?持つべき?は期待値を計算する
まず結論から申し上げます。
売るべきか?持つべきか?の損切り基準は、期待値の計算で判断をすることができます。
正確に言うと、【使い切れる可能性】VS【買取利率】で判断ができます。
これをひとつの表にまとめると以下のように整理ができます。
・縦軸に、いま残っている不動在庫がすべて使い切れる可能性を、
・横軸に、いま残っている不動在庫をいま売った時の買取利率を表わしたときに、
それぞれ売るべきか、持つべきかの判断を色分けしています。
例えば、使い切れる可能性が20%の不動在庫の場合は、
買取利率が30%以上なら売るべき、それ以下なら持っておくべき、となります。(赤枠)
いかがでしょうか?ぱっと見た印象でも、なにやら難しそうなイメージを持たれたのではないでしょうか?
・なぜこのような判断基準になるのか?
・どうやって「使い切れる可能性」を算出するのか?
・買取利率も薬や残りの使用期限によって変わるのでは?
・面倒な計算が必要では?そもそも現場で実践できるテクニックなのか?
これらの疑問にお答えするには、やや複雑で難解な計算ロジックをご説明しなければなりません。また本稿をご覧の皆さま全員に該当するテクニックではない可能性もございます。
そこで、できる限り分りやすく、じぶん事化していただけるよう
「この損切りテクニックは自分にとって必要なのか不要なのか」
「必要ならどう使うのか」
について、以下のフローチャートを使って(感覚的ではありますが)ご自分の性格タイプごとに該当するお勧めの実践方法とロジックをご覧頂ければと思います。
3.あなたはどのタイプ?不動在庫処理のおすすめ実践方法
A:後悔なんてするはずない!損切りはエイヤッと大胆に決断できちゃう楽天家のあなた
シンプルに不動期間が6か月たったら、使用期限が残っているうちに高値で全部売ってしまいましょう!ポイントはできれば毎月、または四半期に一度のペースでこまめに在庫チェックをすることです。そして「在庫処理の細かい計算よりも、他の業務に時間と手間をかけることを自分は選択したんだ」と、ポジティブに考えるのが大事ですね。
B:無駄なコストは出したくない!でも時間も手間もかけたくない!コスパ&タイパ重視のあなた
薬価100円以上の薬だけ、不動状況をこまめにチェック!買取利率はざっくり30%と仮定して、消化可能性30%未満の薬はその都度売却しましょう。この時、消化可能性の計算は、時間と手間を重視して、感覚的に見極めましょう。「7割以上もう出ないだろう」という予測は、たとえ感覚であっても近い判断ができると思います。
C:重箱の隅まで細かくチェック!一切のロスを見逃さない!完璧主義のあなた
消化可能性をきっちり計算し、買取利率との比較を行って、売却損得を見極めましょう。
その上で「売ると残すのダブル運用」があなたにはおすすめです。
売却タイミングもできれば毎月、少なくとも四半期に1回のペースを崩さずにコツコツと実施していきましょう。
D:じつは廃棄よりも欠品の方が嫌!売却した後に患者さんが来て欠品だなんて考えたくもない!なによりも精神安定重視のあなた
基本的に売却は選択肢として考えず、もし売るならば、棚卸で明確な不動在庫が判別できたときだけ実施しましょう。不動処理ではなく、不動防止のためにの過剰を抑える発注スタイルをめざしましょう。
例えば分割小分けを上手く活用することがおすすめです。前回の記事『箱で買うべき?小分けで買うべき?』をご覧いただきご検討ください。
次に、各タイプについて詳しくご説明していきたいと思います。
Aタイプのあなた
該当者が最も多いのがこちらのAタイプだと思われます。
多くの薬局様のお話を伺うと、複雑な計算などは行わずに、より分りやすく、運用がしやすい損切りルールを採用されるケースが多い印象です。
よって、複雑で面倒な医薬品ごとに【使い切れる可能性】の計算はしません。
やることは全薬品共通のおおまかな基準を設けて、現場の先生方に負荷をかけずに継続して運用ができることを重視します。
では具体的にどのような運用方法があるのでしょうか?
例えば、売却予定ボックスの活用です。
店舗ルールとして「不動期間が6か月になったら売却する」と決めておき、不動6か月を迎えた薬はその都度、調剤室に設置した売却予定ボックスに移します。そうしてボックス内に溜まった薬を「3月、9月のタイミングで一斉に売却する」という方法です。
もちろん、不動期間が6か月になったタイミングと売却のタイミングにズレがあるので、ある薬では、ただボックスの中で漫然と時を過ごす形にはなります。
買取利率は、残りの使用期限によって逓減していくので、売り時を逃して損を感じるかもしれません。
参考:残り使用期限と買取利率の例
(※期限を半年単位で区切った場合の買取利率)
(※ロキソニン錠60mgの場合)
ただ分りやすさ、運用のしやすさ、現場スタッフに負荷をかけないやり方、という点で採用されやすく、ポピュラーな方法と思われます。
また、ボックスに溜まった薬の売却タイミングを、固定の月に加えて「薬価〇万円分溜まったら売る」といった金額縛りで行う方法もあります。
これは高額品を少しでも高く売るために「売り時を逃さない」賢い方法とも言えます。
弊社の実績から鑑みて、薬価総額3万円をひとつの目安とし、概ね買取額1万円を獲得するようなイメージとなります。
いずれにせよ重要なのは、売却予定ボックスに移した時点で「まだ使えるかも?」といった淡い期待はあきらめるということです。売却予定ボックスに入れるということは、貯金箱に入れたコインが取り出せないのと同じ気持ちで、過去を振り返らないという割り切ったスタンスが、精神安定上健全なのかもしれません。
Bタイプのあなた
本稿の冒頭で、売るべきか?持つべきか?の損切り基準は、【使い切れる可能性】VS【買取利率】で判断すると紹介しました。
ただし、この【使い切れる可能性】の計算は、やや複雑で面倒なため、物事を効率的に進めたいBタイプのあなたには、計算ではなく、感覚的に判断する方が合理的かと思われます。
もちろん「感覚」ですので100%正しいとは言い切れません。
しかし毎日、現場の最前線に立たれている皆さまであれば、ある程度は正確な判断ができるはずです。
例えば、特定の患者さんだけに使用している薬があった場合、薬剤の特性と患者さんの病態を参考に、次回の来局確率を考えると思います。
恐らく患者さんとの僅かな会話や表情から、感情の起伏、コンプライアンスの変化などを、(意識的か、無意識かはさておき)情報収集を駆使して推理する達人なんだと思います。
ちなみに感覚で使いきれる確率が30%以下かどうかは、以下2つの基準を組み合わせて判断するのがおすすめです。
①過去の処方実績:過去半年の実績で使いきれる分の処方があったかどうか
②患者の再来局予想:直近でその薬を処方した患者がまた来局するかどうか
さらに、横軸の【買取利率】についても同様に、感覚的に判断したほうが効率的です。
なぜならば買取利率は医薬品によってバラバラですし、さらに残りの使用期限などで変化します。買取利率を正確に把握するためには、すべての不動在庫に対して、買取見積もりを都度行う必要があります。もちろんファルマーケットのサイト内で入力をすれば確認はできますが、なかなか大変な作業となってしまいます。
よって、ざっくりと、買取利率30%※と仮定して売るべきか、持つべきかを判断するのがスピーディーかつ、結果的に近似値となると考えられます。
(※30%は弊社の買い取り実績平均40%からバッファをとった数値)
よって、判断軸としては以下のようになります。
上記の表から、使い切れる可能性が30%未満なら売却すべきで、それ以上ならば持っておくべき、となります。
4.【解説】なぜ使い切れる可能性 VS 買取利率になるのか?
ちなみに、【売るべきor持つべき】の判断が、なぜ、【使い切れる可能性VS買取利率】になるのかについて説明をします。
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例題
患者さんが来て使い切れる可能性が、50%の不動在庫があったとします。
計算しやすいように、薬価は100円で、仕入原価は85%としましょう。
この薬は売ったほうがいいか、持っていたほうがいいか、どちらでしょうか?
買取利率は、薬価に対し40%※とします (※当社平均値)
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まず売った場合の利益は以下のように計算されます。
【売った場合】
・売却額は、薬価100円×40%=40円となります。
・ただし仕入原価は85円だったので、
・得られる利益は、40円-85円=▲45円の赤字確定となります。・・・①
つぎに、売らずに持っていた場合の利益を計算します。
※使い切れた場合と、使えなかった場合でそれぞれを計算します。
【持っていた場合】
→持っておいて使い切れた場合
・売上100円-原価85円=15円の黒字となります・・・・②
→持っておいて使えなかった場合】
・売上0円ー原価85円=▲85円の赤字となります。・・・・③
→まとめると
・②のプラス15円の可能性が50%で、
・③のマイナス85円の可能性が50%となり、
・期待値は売上100円×確率50%-原価85円=▲35円と計算ができます。・・・・・④
最後に、売った場合の利益(①)と、売らずに持っていた場合の利益(④)を比較して、どちらが得かを考えます。
売った場合▲45円 < 持っていた場合▲35円
となるので、この問題の答えは、売らずに残したほうが良いとなります。
使い切れる可能性ごとに、売る場合と残した場合の損益額を表にすると以下のように整理ができます。
買取利率が40%の場合なら、
使い切れる可能性が、40%未満ならば、売ったほうが得をし、
使い切れる可能性が、40%以上ならば、残したほうが得をする。となります。
つまりロジックとしては、
【買取利率】>【使い切れる可能性】 ならば、売ったほうがいいとなり、
【買取利率】<【使い切れる可能性】 ならば、残したほうがいいとなります。
Cタイプのあなた
正確に物事を把握し、細かい計算なども苦ではないCタイプの方は、使い切れるか否かの期待値の計算を徹底的に追及しましょう!
ではそもそも「使い切れる可能性」はどうやって計算するのか?について解説します。
5.【解説】使い切れる可能性とは?
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例題
1年前に、使用期限2年の薬100錠を卸から購入しました。
納品後、半年間で30錠使いましたが、残り70錠は直近半年間は不動になっています。
この薬は売ったほうがいいか、持っていたほうがいいか、どちらでしょうか?
買取利率は、残りの期間に応じて変化します
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図にすると以下のように表すことができます。
この場合、確かに直近半年間は不動在庫となっていますが、1年スパンで見ると処方実績は存在します。使用期限を迎える1年後の消化可能性を考えるため、
【①過去1年間の使用実績量】=【②むこう1年間の使用可能量】と仮定してみます。
過去1年間の実績が30錠なので、むこう1年間の予測も30錠となり、
今日時点の在庫数が100錠-30錠=70錠なので、
むこう1年間の在庫消化可能性は、30錠÷70錠。つまり42.8%と計算できます。
最後に買取利率は、残期間によって変化するという条件も加えて考えます。
ファルマーケットの買取テーブルを例に計算します。
(※期限を半年単位で区切った場合の買取利率)
(※ロキソニン錠60mgの場合)
むこう1年間の在庫消化可能性が42.8%ということなので、上記の買取利率52%より、使用期限が残り1年のタイミングで(つまり今日)売却する方が得となります。
ちなみに、このまま持ち続けて残り半年のタイミングで売却する場合も考えてみます。
半年後の在庫消化可能性は42.8%に半分の21.4%ですので、上記の買取利率と照らし合わせて、やはり売却したほうがよいとなります。ただし、売却額をみれば、早く売ったほうがよりお得、となるので、半年間持ち続けて、もし患者さんが来なかったのであれば悔しい結果となります。
6.応用編:売ると残すのダブル運用
理屈ではお分かりいただけると思いますが、それでも「もし売却した直後に患者さんがきたら、、、」という事態もゼロではありません。
冒頭の「切る来る」の法則ではないですが、精神的なダメージはどうしても避けたいのが人情です。
ではそんな方のために、売ると残すの両取りを狙う方法というのをご紹介します。
不動になっている70錠のうち、①40錠は残1年のタイミングで高値で売却し、②過去に実績のある30錠だけは一応手元に残しておく、という両どりの方法です。
この場合、残した30錠がもし使い切れたらラッキーですし、仮に使えなかったとしても、「それは掛け捨ての保険代だったんだと考えればあきらめもつく…」という割り切った考えと言えます。
具体的な数字がいくらになるか計算してみます。
【損切りした場合】※一部売却、一部残すのW運用
・まず、1年前の仕入金額は、薬価100円×100錠×原価率85%=8,500円です。
→【キャッシュアウト】8,500円
・そして30錠を患者さんに調剤しましたので、
売上は、薬価100円×30錠=3,000円
→【キャッシュイン①】3,000円
・つぎに売れ残った70錠のうち40錠を売却するので、
売却額は、薬価100円×40錠×買取利率50%=2,000円
→【キャッシュイン②】2,000円
・最後に売却せずに残した30錠が、結局使えずに廃棄になった場合、
→【キャッシュイン③】0円
まとめると、
・キャッシュアウト : 8,500円
・キャッシュイン①②③: 5,000円
・合計 :▲3,500円 となります。
これは早めに損切りをしたことで、傷は浅くすんだという状態ですが、もしも売却せずにすべてを残し、かつ廃棄になってしまったという最悪のケースと比較して、リスクヘッジがいくらできたのかを確認してみましょう。
【損切りしなかった場合】
・まず、1年前の仕入金額は8,500円です。
→【キャッシュアウト】8,500円
・そして30錠を患者さんに調剤しましたので、
→【キャッシュイン①】3,000円
・つぎに売れ残った70錠を売却せずにそのまま残す判断をしましたので、
→【キャッシュイン②】0円
・さらに結局患者さんが来なかったので廃棄となったので、
→【キャッシュイン③】0円
まとめると、
・キャッシュアウト : 8,500円
・キャッシュイン①②③: 3,000円
・合計 :▲5,500円 となります。
損切りした場合と、しなかった場合を比較すると、
売却額の2,000円が、そのまま赤字の削減効果となることが分ります。
ただし、この売ると残すのダブル運用には欠点が2つあります。
まず、残すためには、不動残数量が、使用実績数量よりも多い場合でないと成立しません。
つぎに、ファルマーケットへの売却する際には(薬機法上の規定で)外箱が必要となるため、残したお薬はチャック付きビニール袋へ移し替えて、期限や製造番号などのメモ書きと一緒に保存するという、作業の手間が発生します。
いかがでしょうか。。
各医薬品ごとに、①使用実績数量を確認し、②残りの期限から残す分と売る分とに分別し、③かつ個別に包装作業をする、この一連の作業は面倒な手間と時間が発生してしまいます。もちろん作業に見合うリターンが見込める、例えば薬価が高額なお薬であれば頑張るべき手法ですが、そうでない場合は難しい方法となってしまいます。
7.終わりに
前回の記事『箱で買うべき?小分けで買うべき?』で検証した通り、薬局の在庫は完売できないと赤字になってしまう、非常にシビアな環境にあります。
皆様の日々のちょっとした心がけの積み重ねが、確実に利益へと繋がることを信じて、ファルマーケットは全力でサポートをしてまいります。
今後ともどうぞ、よろしくお願いいたします。