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「へき地の医療を日常にする。」過酷な経営環境でもへき地医療を提供し続ける理由

公開日:2022年02月03日
四国でへき地医療に取り組まれるNPO法人へき地とあゆむ薬剤師様・多和薬局様に、へき地医療の実態や在庫管理の難しさ、へき地医療へ取り組む思いについてお伺いしました。

NPO法人へき地とあゆむ薬剤師 代表理事:安西英明様

多和薬局 管理薬剤師:清水義樹様 薬剤師:十河八重子様 事務員:真部ひろ子様


1)NPO法人と薬局の概要

へき地の医療福祉向上を目指して生まれた法人と薬局


Q:NPO法人へき地とあゆむ薬剤師について教えてください。

安西:

香川県では、2011年12月に内閣府からかがわ医療福祉総合特区の指定を受け、島しょ部やへき地における医療福祉の向上を目指した事業の展開を開始しました。翌年の2012年、さぬき市が運営する多和診療所が建物老朽化に伴い近隣の保育所跡へ移設することとなり、同所へ多和薬局の開設案があがりました。その際、へき地薬局を継続的に成り立たせるため、「特定非営利法人へき地とあゆむ薬剤師」を設立いたしました。

NPO法人の会員は、香川県薬剤師会有志17個人と1団体で構成されています。



Q:多和薬局について教えてください。

安西:

多和診療所から発行される院外処方せんを、薬剤師2名、事務員1名で対応しています。開局日は週2日で、火曜と木曜に半日ずつ開いています。OTCや衛生雑貨の取扱いや、地域住民との交流、へき地薬局からの健康情報発信を通して、多和地区500人弱の地域住民の医療福祉水準向上へ貢献しています。

香川県にある徳島文理大学香川薬学部の学生実習も受け入れており、へき地医療の実態を近隣住民の方から学生が学ぶ機会も提供しています。


清水:

多和薬局を開局して最も良かった点は、医師が処方する薬の種類を広げられたことです。

多和薬局ができる前は院内で処方していました。当時は、診療所の経営的な背景から月々の取扱い医薬品数は60品目程度でした。品目が限られているため、患者さんにとって最適なお薬をお渡しすることが難しい場合が多々ありました。

多和薬局の開設以降、少しずつ品目を増やし、いまでは140品目と当時の2倍以上を取扱かっています。おかげで、住民の方へ適切な医療を提供できるようになりました。


※さぬき市多和地区

香川県さぬき市の南部にあり、徳島県との県境をなす阿讃山脈の懐に位置する。お遍路の最終地点である四国八十八ヶ所結願寺の大窪寺や、源平合戦ゆかりの伝説が伝わる地区。

左:多和地区を織りなす阿讃山脈
右:四国八十八ヶ所結願寺の大窪寺


2)へき地医療の実態と課題

薬局や薬剤師に対する助成制度は無く、へき地薬局の経営は非常に難しい。

Q:香川県におけるへき地医療の体制について教えてください。

安西:

香川県は、日本で最も小さな県です。しかし、24の有人離島があり、島しょ部・へき地と指定される地域は32か所もあります。こういったへき地では、そもそも病院や介護施設といった医療・福祉の提供施設が少なく、医療を受けることじたいが難しい状況です。

そして、医薬品に関しては更に困難な環境です。へき地の診療所はあるものの、へき地薬局は無いことが大多数という現状です。そのため、院外に処方せんを発行することができない。院内で対応するしかないのですが、経済的理由で在庫を増やすことが難しいため、へき地の医師は限られた種類の薬で処方しているという現状です。



Q:医療機関が無い島では、どのように医療を受けるのですか?

安西:

比較的大きな島である小豆島と直島には医療機関があります。特に小豆島は大きな病院があり、緊急用のドクターヘリが利用できます。しかし、それ以外の島には医療機関が無いので、通院するには海を渡るしかありません。ドラッグストアもないので、基本的には自分の努力で健康を維持することになります。

病院がない島で急を要する体調不良が起きた場合には、海上タクシーを使って香川本島の病院へ搬送されます。


Q:なぜ、へき地薬局は少ないのでしょうか。

安西:

正直にお話すると、へき地における病院や薬局は、診療報酬やOTC等の利益だけでは経営が成り立ちません。へき地薬局は、ほぼボランティアというのが現状で、へき地薬局が少ないことに繋がっています。

病院に対してはへき地医療に対する助成金が支払われており、医師や看護師が船に乗って訪問診療するといったこともできます。しかし、薬局や薬剤師に対して助成金の制度はありません。

私が香川県薬剤師会の会長に就任していた際に、へき地医療に関する薬剤師の制度について提言をしたこともありますが、実現化に及んでいない状況です。そんな状況下でも、医療は平等に受けられるようにしなければならないので、我々はへき地における薬局を提供し続けています。




3)へき地における薬局運営

スタッフ一人ひとりのホスピタリティが、薬局を成り立たせる原動力


Q:多和薬局の運営はどのようにして成り立たせているのですか。

安西:

1日に来局される患者さんは数名なので、薬局の売上だけではまかないきれません。NPO法人の会員費や寄付金、県のへき地薬局活用事業の支援を活用しながら運営していますが、最も大きな部分はスタッフ皆さんのご協力に尽きます。


清水:

普段は香川県学校薬剤師会の理事として学校の環境衛生に関する指導をしてます。多和薬局ではボランティアとして勤務しています。

2012年ごろまでは自分で薬局を経営していて、身体的な理由から薬剤師を廃業しようと考えていた矢先に声をかけていただいて。医療のあるべき姿を思い浮かべたらやるべきなので、お手伝いすることにしました。他に手をあげる方もなかなかいなく、自分がやるしかないという使命感で続けています。



Q:通常の薬局とへき地薬局の違いを教えてください。

清水:

1日の来局数が少ないため、ひとりの患者さんへかけられる時間が長いことですかね。元々は、患者さんと長く話すタイプではありませんでした。多和薬局で勤務してからは、患者さん1人と十分なお話ができる時間が確保でき、薬の服用方法や生活習慣のアドバイスをしっかり実施できます。これも、へき地医療へ取り組むやりがいに繋がっています。



Q:多和地区のかかりつけ薬局として機能されてますね。

清水:

そうですね。すべての患者さんを把握できているので、緊急時にも迅速に対応できます。

ある年の12月の朝、近所のご高齢の女性が診療所近くの側道で倒れてるとの連絡を貰いました。診療所の看護師とともに駆け付けるといつも来局されてる患者さんでした。疾患や服用状況も把握していたので、救急対応も迅速に実施できました。

原因は服用中の降圧剤による低血圧で意識消失したことだったんですけど、迅速な処置のおかげで翌日無事に帰ってこられました。その翌週、元気な顔でご来局いただきました。

へき地にも普通の医療を届けられていると実感した、思い出深いエピソードです。


Q:へき地特有の在庫管理の難しさについて教えてください。

清水:

欠品が起きてしまうと大変です。近隣に薬局はなく、市内の薬局まで取りに行くとなると車で20分以上かかります。卸のかたにお届けしていただくのも大変なので、医師と患者さん双方に相談しながら対応しています。

また、それぞれの薬を使用している患者さんが少ないため、不動在庫になってしまうことも多々あります。近隣との融通がそもそもできないので、ファルマーケットさんを利用するまでは廃棄するしかありませんでした。不動在庫を売却し薬局運営費へまわせるようになったことは、とてもありがたいです。

左:NPO法人へき地とあゆむ薬剤師 代表理事 安西様
右:多和薬局 管理薬剤師 清水様


4)今後の取り組みとへき地医療への思い

へき地において医療が日常となるよう、へき地医療へ取り組む仲間を増やしていきたい


Q:今後、取り組まれたいことをお聞かせください。

安西:

すでに取り組みを初めていることではありますが、学生実習の薬学部生に地域住民との交流会に参加してもらっています。薬局の隣にある元多和小学校の体育館で、毎年3月にスポーツレクリエーションが開催されまして、多和薬局としても参加をし、地域住民から健康相談を受け付けています。

スポーツレクレーションの時にお薬の相談や残薬管理、物忘れ相談など、地域住民とじかに触れあう体験を通し、地域に根差した医療の大切さを伝え、ゆくゆくはへき地医療の充実へとつなげたいと考えています。



Q:最後に、へき地医療への思いをお聞かせください。

安西:

へき地は香川県のみならず、日本全国に点在しています。そんなへき地において、医療を日常として受けるためには、まだまだ環境が整っていません。

もし、へき地医療を体験する機会がありましたら率先して参加し、へき地の実態を肌で感じていただきたい。そして、へき地医療へ取り組む仲間が増えることを願っております。

我々は今後も、へき地の健康を支えるハブとして、地域に根差した薬局、NPO法人として医療を提供し続けたいと思います。



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